星座のはざまで身をうねらせる
竜だけれども、妖精の金の羽根を
持っている。
惑星の音階を絵にした形、
あらゆる重力・引力から炎の純粋さで
身を保つ術を知っている。
( 2000.7.31 発行「星の文字」 より )
( 2023.11.15 イラスト作成 Bing Image Creator )
鏡の岸の姫
星の河をわたると
星の門があって
星の宮にはあなた
もうひとりのわたし
星の河をわたれば
きっと会えるけれど
こちらの岸で
わたしはかざす
しるべの灯りを
闇がてらされますよう
春がおとずれますよう
おなじ種火から
うまれた
あなたとわたし
忘れ河をわたり
あけぼの歌う
いく百万の物語よ
(オリオン座と双子座と
アメノウズメとetc.)
( 2021.12.11 Twitter より )
( 2023.11.13 推敲加筆 )
( 2001.12.1 発行「結晶作用No.2 子どものいる場所」 より
切り紙イラスト )
残響(Bing Image Creator)
Le vent se lève !… Il faut tenter de vivre ! L’air immense ouvre et referme mon livre, La vague en poudre ose jaillir des rocs ! Envolez-vous, pages tout éblouies ! Rompez, vagues ! Rompez d’eaux réjouies Ce toit tranquille où picoraient des focs ! ( "LE CIMETIÈRE MARIN" Paul Valéry,1920 )
見知らぬ森、続く空
晴れぬ雲の壁、
白紙のページに閉じ込められ
私は、たくさんの忘れ物を
指のすきまからこぼしてきた
前のページに戻ってさがすのは、
やめておく
風にさらわれたページが、
次から次へと羽ばたく
お終いまでめくり終え
風は、ほころびた本を旅立った
すべてを知っているだろうに
なんの重荷も持たず
風は旅する
昨日の私は、今日の私ではない
明日の私は、今日の私ではない
子ども達は、
まっさらなページを
始めから旅する
さぁまだ見ぬ物語を、さがしに出かけよう
エメラルドの波のゆりかご、
化石の竪琴が
閉じ込めた歌をさがしに
( ポール・ヴァレリー「海辺の墓地」の残響 )
( 2013.12.25 ブログ「こちら、ドワーフ・プラネット」より )
( 2023.10.25 イラスト作成 Bing Image Creator )
残響 – こちら、ドワーフ・プラネット (downadown.com)
Le vent se lève !(Bing Image Creator) – あかり窓 (memoru-merumo.com)
沈黙の領分
もしも宇宙樹の根の上
世界を聞きとりたいと願うなら
追いつめてはいけない
一本の柱をふりかざして
ひとつの神殿が全ての天を
支えられるはずだと
思い込みの回路をめぐらせば
たしかにどこかの錬金術師が
偶然 地図を描くでしょう
けれど それは薬品が押し出した
単発の〇✕式回答
ちがうんです
わたしが思い出しかけた歌と
あなたが呼びかけたかった声とは
ちがうものなんです すべてみな
二度と再び等しく流れぬ ♪ の
散り昇る火の粉の
星くずの
無数の金色の細流
計測し得ぬ それぞれ
ただひとすじきりの軌跡
だけれども
今 どこかの野原で
深い知り合いのように
ふたつの流れがそそぎあい 何万もの
プランクトンが跳ね回って
みずみずしくはじけた
その細胞のよろこびを
過去にも未来にも
したたかに記憶しているので
全ての存在はそれほど切り離されては
おらず
張りめぐらされた
血管の形は 木々の枝ぶりと同じ
ごらんなさい
結び合わされたものたちが
風の呼吸の中で
いのちの基本形を示している
あらゆる触手たちの
やわらかなざわめきに踏み込んで
そこにある静けさに この鼓動を
重ね合わせたなら
あたたかな闇
繰り返し寄せ来る源からの調べ
途絶えることない潮の胎動
オレンジ色の女神の足跡は
波頭を踏みアポロンを導いて
再びあふれる透明に
黎明をむかえた
収拾のきかぬ尖った〇✕式回答たちは
はじめて水平線も地平線も丸いことを
発見して
そしていっさいが太古からと同様
めぐり続けるでしょう
(それから先は沈黙の領分
言葉の扉の向こう側の世界……)
( 1987. 発行 同人誌『ポラーノ』)
( 2001.7.31 発行『星の文字』 加筆 )
( 2023.10.18 イラスト作成 Bing Image Creator )
imagination
私の夢とあなたの夢と
眠りの向こうの海辺、
遠い幼さでいつだったか
手をつないだこともあったでしょうか?
生まれる前のはるかな旅……
魚から目覚めて透明を泳ぎ
馬以前のうさぎ以前の人以前の潮の
たゆたいに洗われていた私達ですから
ずいぶん永い間いっしょに居たのでは?
?でしか語れないのは
一人ずつ生まれて個をたどりながら
きっといろいろ忘れてしまったから
一人ずつです
一人の自分しか見えない暗い場所に
踏み込むことも起こります、でも
暗闇でユニコーンを見ましたよ
ふいに優しい白さで、その瞳ときたら
子守歌でした
独りの夜、危なっかしく浮かんだ月に
思いがけずうさぎが跳ねていて
笑って言ったんです、
僕はずっと昔から地球を見てるよ
危なっかしいけれど、?と輪踊りを……
ずっと踊ってましたっけ、おなじ波で
ユニコーンも月のうさぎも私もあなたも
闇の向こう、虹色のリュートを奏で
語りべが呼んでいます、海の果て
地球の記憶の方角へと
( 1989.3.15 東京学芸大学国語科教育学 根本正義研究室 文学同人会発行『大人になった子どものために』掲載 )
( 2001.7.31 発行『星の文字』 加筆 )
( 2023.10.16 加筆 )
( 2023.10.15 イラスト作成 Bing Image Creator )