沈黙の領分


もしも宇宙樹の根の上
世界を聞きとりたいと願うなら

追いつめてはいけない
一本の柱をふりかざして
ひとつの神殿が全ての天を
支えられるはずだと
思い込みの回路をめぐらせば
たしかにどこかの錬金術師が
偶然 地図を描くでしょう
けれど それは薬品が押し出した
単発の〇✕式回答

ちがうんです
わたしが思い出しかけた歌と
あなたが呼びかけたかった声とは
ちがうものなんです すべてみな
二度と再び等しく流れぬ ♪ の
散り昇る火の粉の
星くずの

無数の金色の細流
計測し得ぬ それぞれ
ただひとすじきりの軌跡
だけれども
今 どこかの野原で
深い知り合いのように
ふたつの流れがそそぎあい 何万もの
プランクトンが跳ね回って
みずみずしくはじけた
その細胞のよろこびを
過去にも未来にも
したたかに記憶しているので
全ての存在はそれほど切り離されては
おらず

張りめぐらされた
血管の形は 木々の枝ぶりと同じ
ごらんなさい
結び合わされたものたちが
風の呼吸の中で
いのちの基本形を示している
あらゆる触手たちの
やわらかなざわめきに踏み込んで
そこにある静けさに この鼓動を
重ね合わせたなら

あたたかな闇
繰り返し寄せ来る源からの調べ
途絶えることない潮の胎動
オレンジ色の女神の足跡は
波頭を踏みアポロンを導いて
再びあふれる透明に
黎明をむかえた
収拾のきかぬ尖った〇✕式回答たちは
はじめて水平線も地平線も丸いことを
発見して

そしていっさいが太古からと同様
めぐり続けるでしょう
(それから先は沈黙の領分
 言葉の扉の向こう側の世界……)


( 1987. 発行 同人誌『ポラーノ』)
( 2001.7.31 発行『星の文字』 加筆 )

( 2023.10.18 イラスト作成 Bing Image Creator )